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シン・ゴジラを公開一ヶ月にしてようやく観に行ったから5000文字レビューする【ネタバレ注意】

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 公開一ヶ月を過ぎ、MX4Dでやっと初鑑賞してきましたシン・ゴジラ。すでにネット上では半端ない量の感想・考察文が溢れているのに、自分みたいなもんがこのタイミングで何か書いたところで意味があるのかとも思うけど、喉の奥に引っかかった小骨を取ってスッキリした気持ちで生きていくために書きなぐっておきます。タイトルにもありますがネタバレあるのでまだ観てないかたは観てから来てください。まあそんな人がここに辿り着くことなんてこの時期もうないですよね。。ないよな?

 

まず最初に筆者の属性を。

  • エヴァはTV版、シト新生、Air/まごころを君に、序破Q一通り視聴。ゲーム版はセガサターンの1、2、鋼鉄のガールフレンドをプレー。漫画版は貞本エヴァは読んだけどスピンオフ系はほぼ読んでないという、「本編至上主義」的エヴァファン。他の庵野作品はラブ&ポップだけ観た。
  • ゴジラ他、特撮モノに対する思い入れなし。ネット徘徊が趣味なのでキャラクターや用語など、スラング化していたり頻出する情報だけは豊富に持っている。
  • 映画というか映像作品自体ほとんど観ない。映画館に行くのもエヴァQを観て以来。
  • 当然MX4Dとかの「動いたり匂ったり浴びせられたりする」映画も初めて。

特撮に詳しいかたの元ネタ解説とか歴史とか考察的なアレはもう山ほどありますし、自分にはわからんのでそういうのは全て放棄しまして、エヴァファン目線&明らかに流れに乗り遅れた人間目線でのレビューを、新・真・神・進・深・ゴジラというエヴァ風の言葉遊びを活用しつつ書かせていただきたく。

 新・ゴジラ

 とか言っといていきなり「もうすでに散々語られてますけど」系の話で申し訳無いのですが、シン・ゴジラは1954年の初代ゴジラ以来初めての「ゴジラが初めて出現した」映画だってことじゃないですか。まずこれがすげえなと。初代ゴジラ以外はみんなゴジラが一回以上出現してて、ゴジラが何なのか知ってる世界の物語なんですと。

もちろんこの世界に生きる我々も"ゴジラ"ってものが何なのか、ある程度知ってるわけです。放射能の影響かなんかで生まれた超デカい怪獣で、口から火吹いて、モスラとかキングギドラと闘って……みたいな。でもシン・ゴジラの世界は円谷英二が生まれなかった世界なので「怪獣」という言葉や概念も存在しない、って設定もあるそうで。ゴジラという存在に関して、完全にまっさらな世界なんですよね。一緒に観に行った人は「ゴジラって恐竜?怪獣?なんなの?人類の敵なの?味方なの?」って感じの人だったんですけど、それでもゴジラがゴジラだってことは知ってる。

我々と登場人物たちとの知識の差は、普通に考えたら物語に入り込みづらくなるマイナスポイントだと思うんですけど、ゴジラがいることと円谷英二がいなかったこと以外全てにおいて徹底的なリアリティの追求を行うことで、そのマイナスポイントをプラスに転換してると感じました。もし登場人物たちがゴジラに関して我々と同じ知識を持っていて「まさか、あのゴジラがこんなことにー!?」って驚いてたとしてもそれはそれで面白いんでしょうけど、ゴジラに関してまっさらな状態である登場人物に引っ張られて僕らもまっさらな状態になれたというか。僕は、物語が進んでいくにつれてゴジラに関する認識が改められていく、脳が上書きされていく感覚を覚えたんですよ。

  • ゴジラは「僕らの知っているあの形」である→クッソキモい形から進化していく
  • ゴジラにミサイル当たったらちょっとは痛がる→クッソ硬くて全然効かない
  • ゴジラは口から火を吹く→背びれや尻尾からもクッソ吹く
  • ゴジラは人間の味方にもなる→こんなクッソ怖えもん味方になるわけねえ

知ってるはずのものを知らないものにされて、新しいものとして刻み込まれる……2時間矢継ぎ早に脳内をかき回されて、すげー気持ちよかったです。アハ体験に近い快感だったかも。

 

www.youtube.com

庵野総監督は宣伝映像でどこまで情報を公開するかなども指示していたようです。話の大筋しか明かさない、第四形態以外のゴジラの姿を映さないなど、明らかに情報量が少ない。我々がゴジラに関する前提知識は持っているが、シン・ゴジラに関する前提知識はほぼない(本編を見始めてようやくその齟齬に気づく)という状況を作り出しているわけです。この宣伝方法は上記の脳内体験を大いに助けたと思います。ホント庵野総監督は観客が持っている前提知識を巧みに利用するのが得意だな~~~。その手法をエヴァQでは悪質なドッキリみたいな方法で利用したわけですが、シン・ゴジラでは非常に丁寧で真摯なやり方で利用したと思います。この差はなんなのか。アニメファンと特撮ファンへの好感度の差なのか。。シン・エヴァの最初で「エヴァQはなかったことにしてください 庵野秀明」(漫☆画太郎方式)ってテロップが出てエヴァ破の続きから話が始まっても俺は許すよ。

 

ということで、新・ゴジラとしてのアプローチに関しては大成功だし僕は大いに楽しめましたという話でした。

真・ゴジラ

 ここは今までのゴジラが僕の専門外なのでサラッと。(初代ゴジラ以降の)今までのゴジラの否定に近いニュアンスもシン・ゴジラにはまあ、あったんだろうと思います。つまんねーから全部なかったことにしようぜ!みたいなことではなく、ゴジラってやっぱ特撮の顔じゃないですか。ウルトラマン、仮面ライダーも特撮の顔ですけど、人間(が変身する主役)じゃなくてここまでの存在感あるのはやっぱゴジラで。

そのゴジラが興行成績ふるわずとっとこハム太郎と同時上映されるのみならず、ハム太郎を観に来た親子連れから子供が泣くからと邪魔者扱いされるなんて恥辱も味わったというのは、特撮文化全体にとって重いんじゃないかと、僕は特撮素人ですが思うわけなんです。ここまでの大ヒットは予想外だったかもしれませんが、ある程度ヒットさせて「特撮は、ゴジラは、きちんと商売になるコンテンツである」(から今後も作ろ?ね?)ということを証明したい気持ちも、制作陣にはあったのではないかなと。そういう意味での真・ゴジラ。いかがでしょうか。話が甘いですね。サーセン。見逃してください。

あとまあ、ハリウッド1998年版のトカゲとかを偽・ゴジラとしての真・ゴジラかなとも一瞬思ったのですが他のゴジラを観てないのでもう触れません。

神・ゴジラ

 「ゴジラの英語の綴りにはGODが含まれてる」という話を最初に聞いたときは「SEKAI NO OWARIというバンド名にはNO WARが含まれている」という話を最初に聞いたときと同じ気分になりましたが、今作ではまさにゴジラが神に近い存在になりますよね。もちろん破壊神でもあるんだけど、食事もしなくていいし基本死なない完全生物ってのはジョジョ二部のカーズを彷彿とさせます。カーズと違うのは分裂して増えそうなところ。創造神にもなろうとしてるんですねゴジラは。

ゴジラの尻尾の人間っぽい部分が映るか映らないかのところで本編は終わりますけど、今になって思えば「あれ、これ人類補完計画じゃん……」ってこと。牧教授なのか牧教授の奥さんなのかゴジラが踏み潰しちゃった人たちなのかわかりませんが、どうやら今作のゴジラは人間とか魚とか、いろんな生き物を吸収なりコピーなりしてるっぽいと。こんなもん、補完計画したかったらエヴァ初号機を寄り代にしなくてもみんなゴジラに踏み潰してもらえばいいですよね。ゴジラの中でみんな一つになってみんな幸せ。ゴジラ死なないし、もし地球がなくなっちゃってもゴジラの中で漂流したらいいやろ的な。

本編後、東京がどのような形で復興していくのかはわかりませんが、ゴジラを東京駅に放置しておくならあの周辺で宗教組織がめちゃ大量にできちゃいそうですよね。ゴジラ教。ゴジラ復活させてみんなで一つになろうって思想で、老い先短い金持ち老人どもがこぞって資金援助、ゴジラの身体をポカポカ温めて冷温解除、こいつぁやべえと対ゴジラ決戦兵器メカゴジラ登場~~~はい特撮版エヴァ完成~~~という寸法。こんなクソみたいなシン・ゴジラ2は絶対にありえないと思いますが、二次創作ではすでにありそう。

つーかゴジラに自衛隊の攻撃が一切効かない様子とか完全に第三使徒だったし皮膚が硬いってものには限度ってものがあるこんなもん絶対ATフィールドやろって思いましたしエヴァのBGMキターってなるしヤシマ作戦をヤシオリ作戦と聞き間違えるくらい俺の耳おかしくなった?って思うし「ゴジラより怖いのは、私たち人間ね」って「やはり最後の敵は同じ人間だったな」を思い出しちゃったからやっぱりエヴァ。

多分意図的に、僕みたいなエヴァファンにとってはそう感じられるようにしたのかなと。ゴジラの知識についてはよく知ってる人も知らない人も均一化するような仕組みにしてて、エヴァの知識についてはよく知ってる人は知ってる人なりに、知らない人は知らない人なりに楽しめるような仕組みにしてる。ゴジラ映画なんで観に来る人にエヴァの知識なんて求められないからエヴァの知識必須にはできない。ニヤニヤするなら勝手にどうぞ、みたいな。その視点で言えば庵野総監督は相当エヴァファンを信用してるよなあ。信用というか、生態がバレてるって感じでしょうか。目論見の通りニヤニヤしています。申し訳ありません。エヴァオマージュ以外のオマージュとかカメオ出演、安野モヨコ作品からの人物名引用やら全てのパロディ要素に関して楽しんでおります。

 

ということでゴジラは神です。♪少年よ神話になれの次は、ゴジラよ神になれ、です。

進・ゴジラ 深・ゴジラ

 さて、実は最後に残しておいたこちらの段落が僕が一番言いたかったことなのです。ここまで3700文字ほどお付き合いいただきありがとうございました。ここから1300文字ほどお付き合いをお願いします。

今回シン・ゴジラを観て一番すごいと思ったことは、ツイッターの見すぎでiPhoneの通信7ギガ制限を月半ばで受けるようなネット廃人の僕が、公開一ヶ月を過ぎてもシン・ゴジラのネタバレをほとんど目にしなかったことです。映画の内容そのものじゃありません。もちろん映画すごかった。邦画がつまんない時代とか言われてるけど、全然そんなことないじゃんと思った。(僕はほとんど映画を観ないのでシン・ゴジラ以外の邦画がつまんないだけとは言えない)

でも映画を見終わって僕が思ったことは、ああ、公開から一ヶ月も経つのに、無人在来線爆弾ってワード以外、ネタバレ見なかったな……シン・ゴジラ観た人たちのこの映画に対する忠誠心というか、「この映画を観ていない人に、ネタバレなしで観てもらいたい!自分たちと同じ体験をしてもらいたい!」って思わせる力、すげえなってことでした。もちろん自分もしばらくの間はツイッターとかにネタバレを書くことはしないでしょう。

無人在来線爆弾ってワードも今思えば見たくなかったけど、それはしょうがない。僕はゴジラが4段階に進化するってことも知らなかったから、最初に出てきたゴジラ(仮)がゴジラなのかもわからずに物語に入れた。こいつがどっかのタイミングで自重で死んで改めてゴジラが出てくるのかなとか思ってたし、最後まで大杉漣があたふたしながらゴジラをやっつけるのかなとか思ってたし、片桐はいりの登場にマジでサプライズを感じることができました。一ヶ月もツイッターや2ちゃんねるをヘビーに見てて、これだけの大ヒット映画のネタバレが目に入らないというのは異常なことだと思う。もちろん【ネタバレ注意】と書いてある記事やブログは徹底的に避けていたけれど、その注意喚起の徹底っぷりも本当にすごいと感じる。観た人みんなにそこまでさせるだけの圧倒的エネルギーがあるというのは、つまりはとんでもなく素晴らしい映画だったという裏付けでもあるはずです。

そして、こうやってグダグダ書いたり語ったり、他者と共有することでそれぞれのシン・ゴジラは完成するんです。もちろん映画を見終わってハイ終わり、楽しかった、でもいいんだけど、マーケティング用語でいう経験価値ってやつの拡大解釈で、コンテンツを経験することで新しく生まれる交流に価値があるという考え方。この楽しみ方の比重が普通のコンテンツよりかなり大きいのはエヴァと同じですよね。考察や議論が"進"むことで、理解と楽しみが"深"まっていく。

 

せっかくこんだけ書いたんで、まだあんまり書かれてないネタ提示できたらと思って考えました。「死」が明確に描かれないってのは他のレビューで散々既出ですけど、この映画「涙」もないんじゃないかと。どっかで誰かが泣いてるシーンありましたっけ?あったらごめんなさいなんですが、ゴジラ凍結完了しても誰も騒がないし泣いたりしなかったですよね。ただみんな「ふぅ~~~~っ、、、」てなるだけ。普通の映画だったら感動のBGM流して全員大騒ぎ&号泣させますけど、全くそんなのなかったですよね。(確認)死も涙も描かず、ある種淡々と進んでいく物語というのが現在の邦画へのアンチテーゼにも感じられて心地よかったです。。とか、こういう解釈するのみんな好きでしょう?っていう。

 

 

僕はエヴァ旧劇場版公開くらいのタイミングで大量に出版された非公式考察本みたいなのを山ほど買ったけど、今の時代は国民総発信者だからいろんな考察ブログを読み漁ってます。散りばめられた小ネタ、劇場では気づかなかった伏線、それぞれの解釈などを共有して、人によっては本編後の世界を想像するところまでが娯楽のパッケージになってる。現に、ここまで読んでくれたあなたはこの駄文にそこそこの時間を使ってくれたはず。読み終わってそっとブラウザを閉じるのか、楽しく読んで共感のコメントをくれるのか、こき下ろすために読んで罵倒のコメントをくれるのかわからないけど、僕はこの文章のリアクションまでを含めて目一杯シン・ゴジラを楽しめたということになると思います。すげー映画です。

 

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