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いまさらだけど、ハイスタの新譜がクソだと思った話を聞いてくれ

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「なんだこのクソ曲は」「こんなのハイスタじゃねえ」「1300円払って損した」「時間を戻して欲しい」

……Hi-STANDARDの『ANOTHER STARTING LINE』を一回し聴いての素直な感想は、ひどいものだった。

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ハイスタの16年ぶりの新譜が告知なしに発売された

 

ーツイッターで最初にその情報を見たときは、手の込んだデマだろうと思った。しかし店頭に並ぶCDと、政治的なデモの様子にも似た店頭ポップの洪水の写真は、これがデマでも夢でもないと語っていた。

 

用事を急いで片付け、20時で閉まってしまう千葉のタワーレコードに19時55分に駆け込んだ。必死で息を整えようとしているのは店員さんにも伝わっていたと思う。レジで後ろに並んだ女性もハイスタの新譜を買うようで、勝手に仲間意識を感じた。

CDを買うのは何年ぶりだろうか?何百枚も持っているCDの中に思い入れが深いものはもちろん沢山あるが、「絶対に今日聴きたい」とCDショップに駆け込むなんて生まれて初めてかもしれない。

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帰りの電車の中ではあえてツイッターで「ハイスタ クソ」「新譜 イマイチ」など、ネガティブなワードを検索した。自分の中で上がりに上がったハードルを少しでも低くするため。なにせ、ハイスタの新譜が出るのは16年ぶりなのだ。日本中のロックファンが待ち望んでいたし、僕も当然そうだ。ハイスタの発していたエネルギーは、バンドが活動していない間も"そこにあり"続けた。

 

2011年に主催フェスのAIR JAMでライブ活動を再開して以降、ハイスタは不定期にライブをするようになった。いつか新譜がリリースされるだろうと思ってはいた。僕(を含めたファン)は、勝手ながら期待を大きく膨らませていた。活動休止中に"そこにあった"エネルギーも、勝手に期待の風船に放り込んだ。16年分の期待が弾けてゴミになってしまうことは、恐怖としか言いようがない。だから考えつく限りの語彙を使い、ネガティブな感想を検索して、落ち着く努力をした。

新譜がどんな出来でも酷評する人間は多いだろうと思っていたけど、ネガティブな感想は想像よりも断然少ない数だった。2ちゃんねるには厳しい感想が並んでいたのである意味で安心したけど。

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家に着くと、即刻PCにCDを放り込み、ヘッドホンを着け、iTunesで再生を始めた。音質なんか気にしてはいられない。1秒でも早く聴きたいのだから。

 

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しかし冒頭で書いたように、僕の期待はあっさりと裏切られた。16年間、メンバーそれぞれの活動の中で得たものを還元したハイスタは、どんなにスゴイものかと思っていたが、こんなものかと。

『Turning Back』のような最強のショートチューンオープニングナンバーと、『Fighting Fists,Angry Soul』のようなコミカルな音の中にシリアスなメッセージが込められているような曲と、ハイスタらしさのすべてが詰まっている『Kiss Me Again』のような曲と、『Stay Gold』のようなアンセムが収録されているものだと思っていた……思いたかったし、思い込んでいた。

 

横山健のきったないコーラスも、パンク(メロコア)特有の「テテーテ テテーテ」というリズムも、変な音や声や展開を使う過剰なまでのユーモアも、このCDにはない。聴かなければよかった、ハイスタがこんな風になってしまうなら、復活なんてしないでくれればよかった、本気でそう思った。

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でも、ハイスタが、あのハイスタが、僕の大好きなハイスタが、こんなつまらないCDを出すはずがない。ハイスタへの信頼感だけで何回もリピートした。

 

すると、2回、3回と聴いていくにつれて、あれだけつまらないと絶望した曲たちがどんどん良いものに感じられてきた。「ハイスタの新譜だから良いにきまっている」と自分を無理やり納得させるようなものではなく、心の底から素晴らしいものに思えてきたのだ。

 

さらに何度も聴くと、ようやくその理由がわかってきた。自分は何度もリピート再生することで、少しずつ「ハイスタがいなかった16年間」のギャップを埋めているのだと。

 

自然と16年前の自分が思い出されて、その次に10年前、5年前、去年……再生数が10回を超えるころには、今の自分と今のハイスタが向かい合っている気がした。自分にもハイスタにもいろんなことがあって、変わった部分も変わらない部分もあって、じゃあどんな部分がどういう風に変わったんだい?と対話しているような気分だった。

「今のハイスタ」を「今のハイスタ」として聴けるようになったから、素晴らしく感じられるようになったのだ。

 

それからも僕は『ANOTHER STARTING LINE』を聴き続け、現在、このCDの再生回数は300回を超えている。

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「あの頃のハイスタ」が最高だったことは疑いようがないが、人は変わる。16年間活動し続けていたバンドであれば、自分も少しずつ変わっていて、知らず知らずのうちに順応しているのだろうけど、ハイスタは16年という年月を一気に飛び越えて、しかもリリースの予告もなく、唐突に現れた。

長い活動休止から復活してCDをリリースするバンドは数多くあるが、CDを聴いてここまでバンドと自分自身の両方と急速に向き合う体験はおそらくもうできないと思う。16年間ずっとハイスタを好きでよかったと思うし、16年前にハイスタを好きになってくれた自分自身に感謝したい。

 

ANOTHER STARTING LINE

ANOTHER STARTING LINE